ホンダヨンダメモ/Z

読書メモ。読んだもの観たもの聴いたもの。

岩﨑周一『ハプスブルク帝国』(講談社現代新書、2017年8月)

 ヨーロッパの歴史を考えるときはもちろんのこと、文学や美術を読んだり観たりする際にも、「ハプスブルク」とは何か、把握しておきたい。だけどその歴史的・地理的拡がりの大きさと、聞きかじりの通俗的イメージが、理解の邪魔をする。その全貌が、どうもモヤモヤとしかわからない。

 このぶ厚い新書(税別千円ぽっきり)は、そんな「ハプスブルク家」と「帝国(本書内では「君主国」という呼称で統一されている)」の始まりから終焉までが、読みやすくわかりやすく描き出されている。

ハプスブルク帝国 (講談社現代新書)

ハプスブルク帝国 (講談社現代新書)

 

  筆者は1974年生まれ、中堅の研究者だが、今の40代以下の歴史学者には専門と一般のあいだをつなごうという意識を持っているひとが多い印象だ。そして実際に興味深い活動を実践し、魅力的な文章を書いている。本書も、あれだけ複雑な歴史をこれだけ見通しよく整理しているのがすごい。しかも現在との関わりに読者の意識を向けることも忘れずに、それを実現している。以前の研究と最新の研究の違いも適宜指摘されている。

 個人的には、スペインやベネルクス三国とオーストリアを中心としたいわゆる帝国との関係が、だいぶクリアになった。また、ヨーゼフ・ロートやシュテファン・ツヴァイク、ムージル、ツェラン、カレル・チャペックらと「帝国」との関わりについて、調べ考えてみたくなった。

 「戦争は他国にさせておけ、なんじ幸いなるオーストリアよ、結婚せよ」のモットーのもと政略結婚による領土拡大をはかった、という説は「端的に言って誤り」だって。