副題「ある独裁の歴史」、小野寺拓也訳、角川新書、2021年2月10日
C.H.ベック「Wissen」叢書の1冊からの翻訳。原書は2018年刊。ナチ政権がいかに権力を握り、いかに戦争を遂行し、そのなかで多くの人間を「排除」していったかの要点を、簡潔に見通しよくまとめた概説書。
わかりやすいが誤っている、あるいは陳腐化したナチズム像が蔓延する一方で、ナチズムを真摯に学びたいと願う人びとの足がかりになるような文献は少ない、というのが現状ではないだろうか。(4ページ「訳者まえがき」)
このような本が新書として出版されるのは、ほんとうに大切なことだ。訳者による読書案内も非常に有用。
個人的には、勝つ見込みがほぼ無くなってからなぜあれだけの長期戦ができたのか、莫大な戦費はどうやってまかなったのか、戦争・人種政策とナチ政府の他の政策との関係は、など、もやもやしていたものがかなりクリアになった。いやしかし、戦闘以外で死んだ/殺された人間の数にはあらためて茫然とするばかり。
つい最近も、Twitter上で「ナチの政策にもよいところがあった」とナチ研究者に絡む人びとの群れを目撃したが、
内政面でナチが目標としたのが、『民族共同体』の建設であった(…)この政策のコインの表面をなしたのが、平等という建前、国民にたいするさまざまな配慮、福祉国家的な措置の拡充だったとすれば、あらゆる敵対勢力の政治的抑圧や人種的排除が、コインの裏面であった。(247ページ)
両者はコインの両面であって、どちらかを切り取って云々することはできないということだ。歴史にはこういうことが多々あるが、その「切り離せない」ということを理解するのは意外と難しい。ナチにかんしては、本書のような最新の知見・研究に基づいた一般向け概説書を出し続けることが必要不可欠だと思う。
第一部
第一章 第二帝政と第三帝国
第二章 第一次世界大戦後
第三章 ヴァイマル共和国の右派
第二部
第四章 ナチによる「権力掌握」
第五章 迫害
第六章 経済と社会
第七章 拡張
第八章 戦争への道
第三部
第九章 戦争の第一段階 — 一九三九〜四一年
第一〇章 暴力の爆発
第一一章 バルバロッサ
第一二章 絶滅政策
第一三章 戦争と占領
第一四章 戦時下の民族共同体
第一五章 ドイツ国内での抵抗
第一六章 終焉
第一七章 終わりに
訳者あとがき
読書案内 — さらに読み進めたい人のために