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【読了本】岸本秀樹『文法現象から捉える日本語』(開拓社,2015年)

岸本秀樹『文法現象から捉える日本語』(開拓社,2015年)

Kindleのセールで購入して読んだ.日本語の文法にかんする本.著者は神戸大学教授で,専門は統語論,語彙意味論.まあ生成文法だ.

・第1章 プロローグ:日本語の独自性?

 語順の話など.日本語は「比較的深く研究されている言語の一つ」と.

 

・第2章 二種類の自動詞

「非能格動詞」と「非対格動詞」という二種類の自動詞について.「動作主」と「対象」,「内項」と「外項」という視点からみて,

〈動作主〉を主語に取るタイプの自動詞は「非能格動詞(unergative verb)」,〈対象〉を主語に取るタイプの自動詞は「非対格動詞(unaccusative verb)」と呼ばれる.

非能格動詞は外項を持ち,非対格動詞は内項を持つ.

「社員が働いた.」は前者,「崖が崩れた.」は後者.このような「非対格仮説」から,たとえば移動動詞を考察していく.

 

・第3章 所有や存在を表現する動詞

(18)彼にはお金が必要だ.

(18)のような構文は,「与格主語構文」と呼ぶことができる.経験者や所有者を与格でマークするということは,英語では,古い英語以外に見られない現象ではあるが,ヨーロッパおよびアジアの言語を含め,多くの言語において頻繁に観察される現象である.

 

・第4章 場所格交替

(1) a. 従業員が箱に衣類を詰めている.

     b. 従業員が衣類で箱を詰めている.

「詰める」という動詞が「を」格で異なる名詞がマークされている.これはどういう条件の時に成立するのか.

(2) a. 従業員が容器に水を注いだ.

      b. *従業員が水で容器を注いだ.

「注ぐ」だと,ダメ.

「詰める」という動詞は,「移動」と場所の「状態変化」というふたつの意味を表すことができる.「注ぐ」は「移動」のみ.ただし,

(4) a. ジョンは赤い塗料で壁を塗った.

      b. ジョンは壁に赤い塗料を塗った.

では,a. が「全体解釈」,b.が「部分解釈」も許す.つまり,意味の違いはあるということ.

 

・第5章 ものの受け渡しを表現する動詞

 目的語をふたつとる動詞(二重目的語動詞),とくに授受動詞では与格は一般的に「着点」を表すが(娘に本を与える、など),「妻に花をもらった」では「起点」を表している.このように三つの項をとる動詞で与格が「着点」や「起点」である現象はドイツ語やチェコ語などにもある,と.

ドイツ語では,raubenやabnehmenなどは「起点」を表す与格(3格)をとる、と専門家から教えていただいた(nehmenやstehlenもそうかな)。どれも「剥奪」的な意味を持つ動詞だが、日本語の「もらう」的な意味を持つ動詞としてはabkaufen(買い取る)が該当するだろうか。

 

・第6章 品詞の認定

品詞を見分ける方法は一般的に3つぐらいある.

1)意味的尺度 2) 分布的尺度(統語的尺度) 3) 形態的尺度

学校文法では,形態的尺度か分布的尺度を用いて品詞を認定するが,まずは分類する語が形態的に独立(あるいは自立)するものかどうか,を区別する.しかし,たとえば「ない」は付属語(助動詞)だが,形容詞の活用をする.さて…….

 

・第7章 隠された主語

「動詞句内主語仮説」について,「疑似分裂文」を用いて分析.おもしろいが,まとめる力は私にはない.

 

・第8章 所有者が上昇するとき

「象が鼻が長い.」と「象の鼻が長い」のふたつの文はほぼ同じ内容を表すが,後者は[[象の鼻]が長い]だが,前者は[象が[(象が)鼻]が長い]であり,発話されない( )内の「象」が取り出されて文中に出現する.これを「所有者上昇(昇格)」という,と.

これを読んで思いつくのはドイツ語の「所有の与格(3格)」で,
Sie blickte in sein Gesicht.
Sie blickte ihm ins Gesicht.
前者の所有冠詞seinが,「顔」の「所有者」としてより自律的な与格(代名詞)として文中に現れる.これも「所有者上昇」と考えていいのかな.

 

・第9章 所有文の定性の制約

日本語の所有文「(人)に〜がある,いる」と英語のthere is/are〜が共通に持つ性質を論じる.

 

不定性

many/some・「たくさんの/いくらかの」は許容する

most/all・「ほとんどの/すべての」は許容しない

「リスト用法」なら固有名詞などをとれる

 

ドイツ語のes gibt〜と対照する考察はきっとドイツ語の研究者によってなされているのだろうな。「リスト用法」だと固有名詞をとることができる、というのはes gibtも同じかな…どうかな…

 

・第10章 イディオム

「非対格仮説」をもとにイディオムを検討.

 

・第11章 語彙変化

「文法化」の話.「動詞+ない」の形式を持つイディオムに現れる否定辞の「ない」について.

 

・第12章 否定の環境で現れる表現

言語には,特定の環境でしか現れることのできない表現がある.その中でも,いろいろな言語において,否定文でしか使えない表現が存在する.このような表現は「否定極性表現 (negative polarity item)」と呼ばれる.

(1) a. John did not buy anything. (ジョンは何も買わなかった.)

     b. *John bought anything. (*ジョンは何も買った.)

 

・第13章 否定の形容詞

本章では,複雑な語を作り出す一つのプロセスとして,統語的に語を作る操作について考えてみることにする.そのような文法操作は,時に「編入 (incorporation)」という用語で言及される.

a.「危なげ (が)ない」 b.「たわい(が)ない」 c. 「しょうがない」などといった表現について.a. は独立タイプ,b.は疑似編入タイプ,c. は完全編入タイプ.

 

・第14章 感嘆表現

英語やドイツ語の形容詞を命令形にするにはbeやseinという「状態」をあらわす動詞を添える(Be quiet! / Sei still!)が、日本語の形容詞は「する」という「動作・行為」をあらわす動詞と作る(静かにしろ!).かつて形容詞や形容動詞には連体形を名詞として使う用法があった.たとえば「見るに忍びない.」「負けるを潔しとしない.」など.形容動詞には,今でも感嘆文において連体形が名詞に相当するような用法が残っている.「なんというきれいな!」とか.

 

第15章 エピローグ