ホンダヨンダメモ/Z

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【読了本】廣野由美子:小説読解入門 『ミドルマーチ』教養講義(中公新書、2021年4月)

 昨年(2022年)末、ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』を光文社古典新訳文庫の廣野由美子訳で読んだので、買ったときに斜め読みしかしていなかった本書をあらためて読んだ。12月30日にツイッターなどに書いた感想は以下の通り。

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ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』読み終わった。Kindleで寝る前に読んでいたが、昨日今日とワクチン副反応により動かずにいて、そのかんずっと読んでいたのだ。語り手がこんなに人間に深く入り込んで語り、しかも物語世界がパノラマのように広がる小説ってあるだろうか。

三人称の語りで、語り手が時にみずから顔を出しつつ、登場人物ひとりひとりにそのつど寄り添い、会話の表面と人物の内面のずれと相互理解のずれを丹念に語っていく。そしてカソーボンはおれだ。いや、リドゲイトもおれだしラディスローもおれだ。良い小説はこれだから読むのがつらい。

光文社古典新訳文庫の廣野由美子訳で。廣野由美子は京大独文出身で学部卒業後に英文学に変わったとのこと。

ジョージ・エリオット読んだらやはり『アンナ・カレーニナ』読まなくては(トルストイ若い頃敬遠していて、これもじつはぜんぶ読み通せていない)。おすすめの訳者をお教えください。

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 文庫で4冊の長い小説だが、久しぶりに入り込み、最後まで読んでしまった。

 『小説読解入門』は、この『ミドルマーチ』をもとにして「小説の読み方」を例示する。第1部が「小説技法篇」、第2部が「小説読解篇」。

 

Ⅰ 小説技法篇

1.  プロローグ 2. 題辞 3. 語り手の介入 4. パノラマ 5. 会話 6. 手紙 7. 意識の流れ 8. 象徴性 9. ミステリー/サスペンス/サプライズ 10. マジック・リアリズム 11. ポリフォニー 12. 部立て/章立て 13. クライマックス 14. 天候 15. エピローグ

 

これはつまり、作品の語りの内部におけるさまざまな技法の解説。

Ⅱ.小説読解篇

1. 宗教 2. 経済 3. 社会 4. 政治 5. 歴史 6. 倫理 7. 教育 8. 心理 9. 科学 10. 犯罪 11. 芸術

こちらは作品と「外部」との関わりを主に取りあげている。

 

 エリオットが人間と社会を捉えるときのベースには「有機体論」があった、と著者は言う。

このようにエリオットは、社会を、人間の身体と同様、有機体として捉えていた。有機体論とは、全体を部分のたんなる寄せ集めとしてではなく、固有の生命によって統一的に成長し、連続的に進化していくものとして捉える考え方である。エリオットは、リールの社会学のみならず、彼女が学んだフランスのオーギュスト・コント(一七九八〜一八五七)の実証哲学やイギリスのエドマンド・バーク(一七二九〜九七)の政治学、そして、彼女と親交のあったハーバート・スペンサー(一八二〇〜一九〇三。エリオットはスペンサーに失恋し、彼からある椅子を紹介された)の進化論社会学、さらに、夫ルイスの生理学的心理学などを拠り所として、このような観念を形成していったのである。(156ページ)

この本がおもしろいのは、そのようなエリオット作品のあり方と、著者の提示する多様な論点と小説作品との関係が、重なり合っているところだ。「有機体」ということばを折に触れて取りあげる著者は、幾種類もの糸を織り上げるとその総体とは別位相の「織物」が生まれるようにして小説は成立しているということを、(暗に)示しているのだと思う。

 文学部の大学生なら、読むべき基本図書のひとつだと思います。