ホンダヨンダメモ/Z

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一杯おごらせての会、週刊読書人の「上半期の収穫」、「こどもとしょかん」第178号

2023年8月10日(木)

体も気分も低空飛行の日々で、地面をみれば蝉が仰向けになっており、空をみれば地面と平行に線を引いたように底の真っ黒な雲がそれでも白く輝く頂をもくもくと青の地に食い込ませている。史上最も暑い夏というその不穏さに、それだけで気分が落ちる。

Covid-19が最初に猛威を振るった年にそいつにやられて異国で亡くなった古くからの友人の、Covid-19のせいで開くことができなかったお別れ会ならぬ「一杯おごらせての会」に参加した。私とは生き方においてほとんど重なるところのない彼だが、ああいうふうに人を信じ人に甘え人に気を遣うような、韜晦とか斜に構えるとかのない、そのいつも胸を張った立ち姿と同様にまっすぐな人間が存在しているというだけで、こちらもなんというかこの世も生きるに値するものでもあるのだなあと感じて少し楽になる、というふうだったのだ。会が終わって彼の妻と娘さんに挨拶をしたとき、私の娘と同い年の娘さんになにか声をかけようと思っていたのだけれど、その意志の強そうなしかし穏やかなすずやかな眼を見たらなにも言えなくて、ただ笑顔を作って軽くうなずきかけるしかなかった。

手に入れてあったが読んでいなかった「週刊読書人」7月28日号を読む。「2023年上半期の収穫から」。ドイツ文学は西口拓子さんが3冊を挙げている。

水島治郎『隠れ家と広場 移民都市アムステルダムのユダヤ人』(みすず書房)

佐藤文彦『聖家族の終焉とおじさんの逆襲 両大戦間期ドイツ児童文学の世界』(晃洋書房)

多和田葉子著/関口裕昭訳『パウル・ツェランと中国の天使』(文藝春秋)

さすが西口さんというべき選書。『隠れ家と……』は未読なので、読んでみよう。隣の「日本近現代文学・文化」で日比嘉高が挙げている、

西村将洋『谷崎潤一郎の世界史 『陰影礼讃と20世紀文化交流』(勉誠出版)

がすごくおもしろそうだ。

そして、東京こども図書館発行の季刊誌「こどもしょしょかん 2023年夏 178」。亡くなったドイツ児童文学・グリム童話の研究者野村泫先生にかかわる記事がふたつ。こぐま社の「子どもに語る」シリーズにかんして、その成立過程をこぐま社元編集長の関谷裕子さんが語っている。シリーズの先陣を切ったのが、佐々梨代子さんと野村先生による『子どもに語るグリムの昔話』(全6巻、1990-93年)なのだ。また、野村先生への追悼文を𠮷原高志先生と𠮷原(石川)素子さんがそれぞれ書かれている。野村先生の、あの独特の高い声を思い出す。私は怒られることのほうが多かったな……。先生は私が大学3年の時に退任なさったので、先生のもとでぎりぎり卒論が書けなかった。私が迷走してしまった大きな要因だったなあと思う。