ホンダヨンダメモ/Z

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アメリカのベストセラーYA小説

ジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』(2013年7月)

 岩波書店STAMP BOOKSシリーズ、金原瑞人、竹内茜訳。原書 “The Fault In Our Stars” は2012年刊、アメリカではベストセラーになったYA文学。

さよならを待つふたりのために (STAMP BOOKS)

さよならを待つふたりのために (STAMP BOOKS)

  • 作者: ジョン・グリーン,金原瑞人,竹内茜
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/07/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 主人公ヘイゼルは16歳、甲状腺癌が肺に転移し、抗癌剤(実際にはない架空の薬)によって進行は抑えられているものの、酸素吸入器とともに生活をし、治る見込みは現状ではない。生から死へと至る、つかのまの宙ぶらりんな状態を生きている。読書好きで、なかでもピーター・ヴァン・ホーテンなる作家の小説『至高の痛み』を心の支えとしている。

 ヘイゼルはサポートグループの集まりで、友人に誘われてたまたま参加していた少年オーガスタスと出会い、親しくなる。オーガスタス(ガス)は骨肉腫で右足を膝下から切断した17歳のかっこいい男の子。彼はなぜかヘイゼルを見つめ、そして話しかけてくる…。

 「病気」という要素を抜きにすれば魅力的な会話と巧みな筋の運びによるすてきな恋の物語なのだが、しかし次第に惹かれ合うふたりの心の動き、気持ちの揺れはやはり彼らが背負う病と死によってくっきりと枠がはめられている。

 ガスの前の彼女のこと。自分の死を常に今に繰り込みながら生きているヘイゼルの、ガスと恋愛関係になることへの逡巡。自分に「残されて」この世に残るはずの両親への感情。物語はそれらを繊細に追いながら、愛読書『至高の痛み』に感じた疑問を解消するためにオランダへ著者に会いにいく場面を頂点として、悲劇的ながら穏やかと言ってもいいような結末へと一気に展開していく。

 死を前にした人間にとっての救いとは、残される人々が自分の死をきちんと引き受けつつ希望を持って生きていくだろうと確信することなのだ、そのリレーこそ人が生きるということなのだ、という言わば「倫理」によって、物語が貫かれている。人物造形、会話の運びや展開の巧みさがそのような倫理観、重いテーマを、若者のさわやかな恋物語へとまとめあげている。

 たしかに評判通り、YA文学の持つポテンシャルを存分に発揮した作品だ。現代の若者像や家族をビビッドにポップに反映するような作品とは方向の異なる、驚くほど正統派な小説だった。