ホンダヨンダメモ/Z

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高宮利行『西洋書物史への旅』と練馬区立美術館「本と絵画の800年」展

高宮利行『西洋書物史への旅』(岩波新書、2023年2月)

著者は慶應大学名誉教授、中世英文学、書物史が専門であり、かつ愛書家、古書蒐集家。本書の内容は、著者が「はじめに」で簡潔に示している。

本書の目的はヨーロッパの書物の歴史に関して、多くの事例から時代の特徴を捉え、点と点を結んで線にすることである。文字メディアがいかに誕生したか、何を書写材料として発展してきたか、パピルスの巻子本はなぜ羊皮紙の冊子本に駆逐されたのか、中世の写本生産の担い手だった修道院の写本室の様子、印刷術の発明がもたらした書物文化の普及とそれとは逆の狭隘化(ルビ:ボトルネック)現象、音読から黙読へと変化する読書のあり方、あふれかえる印刷本とルネサンスの文化人、十九世紀の中世趣味による振り返り現象、書物コレクターの出現と偽書など、書物の生産・流通・鑑賞の歴史が織りなす綾をお楽しみいただければと念じている。

著者のサイトに自著紹介がある。

https://toshitakamiya.com/1342/

このサイト(「高宮利行公式サイト」)は2021年に開かれたものだが、動画による中世英文学や書物史の講義も受けられて楽しいし、読み応えがある。70代の終わりになってこういうサイトを始めるというのは、すごいバイタリティだ。

 

最終章は電子書籍について。慶應大学HUMIプロジェクト(1996-2009)にも触れられている。慶應大学図書館の貴重書室には東西稀覯書のコレクションがあり、そのいくつかは練馬区立美術館で2023年2月26日から4月16日まで開催の「本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション」展にも参考出品されていた。

この展覧会も、見ごたえがあった。吉野石膏、侮れぬ。以下、練馬区立美術館の展覧会サイトより。

本展では、建材メーカーとして知られる吉野石膏株式会社が長年収集してきた絵画コレクションと、吉野石膏美術振興財団のアートライブラリーが有する貴重書のコレクションより、絵画と本との結びつきに注目して選んだ約200点をご紹介します。

アートライブラリーのコレクションにおける大きなテーマは、中世彩飾写本から近代のアーティスト・ブックに至る、ヨーロッパの美しい本の歴史をたどるというものです。なかでも印象派の画家カミーユ・ピサロの息子、リュシアン・ピサロが設立したエラニー・プレスのコレクションは、国内随一を誇ります。加えて吉野石膏コレクションゆかりの日本の画家たちが、どのように出版事業に関わってきたのかを示す資料も収集しています。

本展では同時代の書物と絵画を展覧することで、両分野が関わり合いながら歩んできた歴史を紐解いていきます。

https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=202210231666500052

 

写真は、右が『西洋書物史への扉』口絵の一部。このように呼応すると、知り味わう喜びがいや増すというものだ。

展覧会、カミーユ・ピサロの息子リュシアンの仕事がまとめて見られたのは良い体験だった。(西洋の)本、書物の世界の広大さを思う。