ホンダヨンダメモ/Z

読書メモ。読んだもの観たもの聴いたもの。

サリー・ガードナー『マザーランドの月』(小学館)

原作タイトルはMaggot Moon、2012年の作品。2013年度のカーネギー賞受賞作品。23か国語で翻訳されている、と。実際の歴史とは異なる別の「1956年」を描いたSF児童文学。サリー・ガードナーはイギリスの児童文学作家。

マザーランドの月 (SUPER!YA)

マザーランドの月 (SUPER!YA)

 

 主人公スタンディッシュはオッド・アイで難読症の少年、祖父と〈ゾーン7〉地区で暮らしている。両親はあるとき「消えた」。国の名はマザーランド、どうやら監視と抑圧と暴力の支配するところらしい。彼の通う学校も国家の縮図のようなところで、スタンディッシュは抑圧される側にいる。隣に越してきたヘクターと親友になるが、そのあたりの時間関係は語りの時間とはズレていて、物語の現在ではヘクターは不在である。

「革コートの男」、「アオバエたち」、「月面着陸計画」、「ジュニパー星人」、そして「コッカ・コーラスの国」。それらの正体・実体がなんなのか、スタンディッシュの語りの中ではなかなか明らかにならない。しかし第二次大戦や東西冷戦時代に関する知識がある読者なら、ははああのことか、あれを暗示しているのか、などとわかってくる。最後に暴かれる秘密も、あれのことね、と。

さて…。実はそのあたりがおそらく理由となって、ぼくはうまく物語に入り込めなかったのだ。読者にとって見えるものと主人公にとって見えるもののギャップの大きさは、ここでは物語の深度を高める方向に働いていない。さらに、物語外の現実を暗示するあれこれが、物語内でほとんど回収されない。で、そのままあの結末…。なんだか最後までもやもやしたまま、だったのだ。

もしかしたら、『きみは知らないほうがいい』を読んだあとにこれを読んだから、脳内でちょっと干渉してしまったのかもしれないな。学校の中での支配被支配関係の描写で始まるし、ヘクターが隠している秘密をスタンディッシュが聞いたとき、ヘクターは「おまえは知らないほうがいい」なんて言うんだから。