ホンダヨンダメモ/Z

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メリーナ・マーケッタ『アリブランディを探して』

メリーナ・マーケッタ『アリブランディを探して』(岩波書店、2013年1月)

 うん、これは「YA文学」というジャンルの典型的作品だ。標しづけられた主人公、集団からの疎外と「ほんとうの仲間」の発見、発揮される才能、出自の秘密、恋愛とセックス、自分探し、友人の自殺、ラストの解放/開放感、そして、ジャニス・イアンやU2といったロック/ポップス・アイコンへの言及。

 原題はLooking for Alibrandi、1992年の作品。著者のマーケッタは1965年生まれで元教師の、オーストラリア人作家。邦訳は岩波書店が刊行を始めた「10代からの海外文学 STAMP BOOKS」シリーズ、その一番最初のもの。装幀が洒落ていて、「外国」の香りをうまくまとっている。

 主人公のジョセフィン・アリブランディは大学入学統一試験を間近に控えた17歳の高校生。舞台はシドニーの、アッパーな家庭の子どもたちが多く通うエリート校。しかしジョセフィンは母子家庭かつイタリア系オーストラリア人の家の娘であり、頭が良いので奨学金を得て「お金持ちが支配する学校」で「ずっと肩身のせまい思いをしている」。
 オーストラリア、って以外と知らないのだ。代々のお金持ちはアングロ・サクソン系で、頑張って働いてお金持ちになったのがほかのヨーロッパ系の人々で、主人公の属する、「黒髪に、こげ茶色の瞳、オリーブ色の肌」の「イタリア系」はマイノリティなんだって。そうなんだね。
 さらに加えて、ジョセフィンには、幾重もの縛りがかかっている。オーストラリア社会の中でのマイノリティであると同時に、「ママ」は「未婚の母」なのだった。それは、家族というものを大事にする、保守的なイタリア人コミュニティの中でも疎外されることを意味する。母が「私生児」を産んだことには、どうやら親、つまりジョセフィンの祖父母との関係が背景としてあるらしい。
 そして、そんな状況で、ジョセフィン母娘を「捨てていった」父と出会う…。
 というふうに、移民、マイノリティ、3代にわたる家族の歴史、がストーリーの骨格を作っているがゆえに、傷つき悩みつつ必死になって生きてきた「リアル」な大人たちと大人になりかけの青少年たちが、まっとうな形でハードに対峙する物語になっているのだ。
 ちゃんと男の子との恋も、直前まで行ってやっぱり今はまだだめ、もある。親の期待に応えるのに疲れて自殺する友人もでてくる。正統派だ。主人公だって、アングロサクソンから見たらエキゾチックな容姿、優等生でメガネ女子でちょっとツンデレ、本当は地位のある父親がいて…。
 あざといといえば、ちょっとあざといかも。
 でも、しっかり読ませる。主人公やその家族を含めて、みな魅力的に描かれている。これでYA文学のシリーズをスタートするのは、なかなかいいんじゃないかな。
 おばあちゃんがね、なかなか泣かせるんだ…。

アリブランディを探して (STAMP BOOKS)

アリブランディを探して (STAMP BOOKS)