ホンダヨンダメモ/Z

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『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』(吉岡乾著、創元社、2019年9月)

 著者(よしおかのぼる、と読む)はある言語が話されている場所に赴き、その言語を記述し記録する「フィールド言語学」を専門とする言語学者。東京外国語大学でウルドゥー語を専攻し、博士課程を終えたあと現在は国立民族学博物館に勤務。パキスタン北部のブルシャスキー語、ドマーキ語、カティ語などを調べている。その「フィールド」でのさまざまな出来事、言語調査の実際について書かれているエッセイ集なのだが、なかなか一筋縄ではいかない学者、ということがその書きっぷりから伝わってくる。

現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。

現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。

  • 作者:吉岡 乾
  • 発売日: 2019/08/27
  • メディア: 単行本
 

  なにしろ「はじめに」が巻末にある。そして「あとがき」は担当の編集者が書いている。ぼやき漫才かのごとき、自己韜晦とユーモアがちりばめられた文章なのに、真摯な研究者としての著者の姿がなぜかストレートに伝わってくる、ふしぎに魅力的な語り口なのだ。

なくなりそうなことばがなくなるのには、それぞれに理由があるのだ。

特段の理不尽な状況下において発生したのではない限り、その変化に対して、言語学者の勝手な都合を押し付けて言語保存を強要するのは間違っている。(212ページ)

 記述言語学者は、「なくなりそうなことば」を求めて世界各地に出かけていき、人と交わり、インフォーマントをつうじてそのことばを記録にとどめ、アーカイブに登録する。そういうのって、ああ、「学問」だな、と思う。言語学のおもしろさを味わえる本だ。