ホンダヨンダメモ/Z

読書メモ。読んだもの観たもの聴いたもの。

池内紀先生の訃報

今、池内紀先生が亡くなったとのニュースが。8月30日に死去、と。78歳。 ぼくは、最近翻訳した2冊とも雑誌などで書評していただいたし、中公新書でこの7月に出たヒトラーに関する本を読んだばかりだったし(ここにも感想を書いた)、ちょっと驚いている。息…

『天気の子』(原作・脚本・監督 新海誠、東宝配給)を観た

映画『天気の子』を観た。 叙情的な男女の物語を、美しい色彩と繊細な言葉で紡ぎ出す“ 新海ワールド” (公式サイトより) 雑多さを含めた東京の緻密な描写、雲と雨のダイナミックな描き方を大画面で堪能。 ストーリーというほどのものはない。母の死を契機と…

佐々木健一『美学への招待 増補版』(中公新書、2019年7月)

2004年に刊行されたものの増補版。著者は美学者・フランス思想研究者として国際的に活躍してきた。誰それがこう唱えたという学説史的なスタイルではなく、「誰もが生活のなかで出会っている身近な変化に注目する」方法で「美学」へと読者を誘おうというコン…

池内紀『ヒトラーの時代』(中公新書、2019年7月)

副題に、「ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか」とある。 ヒトラーの時代-ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか (中公新書) 作者: 池内紀 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2019/07/19 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る カール・クラウ…

『ハイジ アルプスの物語』(2015年、スイス/ドイツ)

恵比寿ガーデンシネマで公開中の映画『ハイジ アルプスの物語』を観た。 アラン・グスポーナー監督、ハイジ役はオーディションで500人から選ばれたというアヌーク・シュテフェン。そしておんじはブルーノ・ガンツ。ハイジもおんじも、スイスドイツ語(のなか…

岩﨑周一『ハプスブルク帝国』(講談社現代新書、2017年8月)

ヨーロッパの歴史を考えるときはもちろんのこと、文学や美術を読んだり観たりする際にも、「ハプスブルク」とは何か、把握しておきたい。だけどその歴史的・地理的拡がりの大きさと、聞きかじりの通俗的イメージが、理解の邪魔をする。その全貌が、どうもモ…

ジャンディ・ネルソン『君に太陽を』

(Mediumに以前書いたものを転載) 三辺律子訳、集英社文庫、2016年11月。原作は2014年刊。2015年のアメリカ図書館協会マイケル・L・プリンツ賞受賞(ヤング・アダルト向け作品に贈られる賞)。 君に太陽を (集英社文庫 ネ 2-1) 作者: ジャンディ・ネルソン,…

進化論を中心とした生物学の本2冊

小原嘉晃『入門! 進化生物学』(中公新書、2016年12月) 入門! 進化生物学 - ダーウィンからDNAが拓く新世界へ (中公新書) 作者: 小原嘉明 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2016/12/19 メディア: 新書 この商品を含むブログ (4件) を見る 本川達雄『…

魔法にかけられたエラ(ゲイル・カーソン・レヴィン、三辺律子訳、サウザンブックス、2016年12月)

魔法にかけられたエラ 作者: ゲイル・カーソン・レヴィン,三辺律子 出版社/メーカー: サウザンブックス社 発売日: 2016/12/23 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る (Mediumで以前公開したものを、こちらに移します) 原題 Ella Enchanted、1997年…

『「小顔」ってニホンではホメ言葉なんだ!? ドイツ人が驚く日本の「日常」』

原作サンドラ・ヘフェリン、漫画流水りんこ。KKベストセラーズ、2015年10月。 「小顔」ってニホンではホメ言葉なんだ!? ~ドイツ人が驚く日本の「日常」~ 作者: サンドラ・ヘフェリン,流水りんこ 出版社/メーカー: ベストセラーズ 発売日: 2015/09/26 メディ…

『孤独のグルメ 2』(扶桑社)

久住昌之原作、谷口ジロー作画。18年ぶりの第2巻である。我らが井之頭五郎が13箇所で、ひとり、飯を食う。 孤独のグルメ2 作者: 久住昌之,谷口ジロー 出版社/メーカー: 扶桑社 発売日: 2015/09/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (13件) を見る ぼく…

羽海野チカ『3月のライオン 11』(白泉社)

妻子捨男こと三姉妹父との対決・完結編。 3月のライオン 11 (ジェッツコミックス) 作者: 羽海野チカ 出版社/メーカー: 白泉社 発売日: 2015/09/25 メディア: コミック この商品を含むブログ (27件) を見る いつにもまして絵と文字がぎっしりと描き/書きこま…

サリー・ガードナー『マザーランドの月』(小学館)

原作タイトルはMaggot Moon、2012年の作品。2013年度のカーネギー賞受賞作品。23か国語で翻訳されている、と。実際の歴史とは異なる別の「1956年」を描いたSF児童文学。サリー・ガードナーはイギリスの児童文学作家。 マザーランドの月 (SUPER!YA) 作者: サ…

岩瀬成子『きみは知らないほうがいい』(文研出版、2014年)

小学六年生の米利(めり)はある日バス停でクラスの男の子昼間くんと会う。昼間くんは転校生で、あまり話したことがない。昼間くんは、ふざけて米利の大切なポーチを汚したのに謝らない男の子に向かって「謝ったほうがいいよ」と言う、そんな子だ。バスの中…

春画展(永青文庫)

連休の一日、江戸川橋から歩いて永青文庫へ。「春画展」を観る。開館15分くらい前に行ったら、もう50人ほど並んでいる。開幕直後&連休、ゆえの混雑か。18歳未満お断りである。 これは、観るべし、としか言いようがない。書物や雑誌などで目にしたことはあ…

鈴木理策写真展 意識の流れ(東京オペラシティアートギャラリー)

小田急線参宮橋駅で降りて商店街を抜けつつ、10分ほど歩いて初台へ。東京オペラシティアートギャラリーで開催されている「鈴木理策写真展 意識の流れ」を観た。 鈴木理策は1963年生まれ、故郷である熊野や、サント・ヴィクトワール山、セザンヌのアトリエを…

ブレヒト『アンティゴネ』(谷川道子訳、光文社古典新訳文庫)

谷川道子訳ブレヒトとして光文社古典新訳文庫では4冊目となる『アンティゴネ』を読んだ。 アンティゴネ (光文社古典新訳文庫) 作者: ブレヒト,谷川道子 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2015/08/06 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る 「ソ…

近藤ようこ『死者の書 上』(KADOKAWA/エンターブレイン)

折口信夫『死者の書』を近藤ようこがマンガ化すると聞いて、期待は大きかった。そして期待通りに良いものだった。 死者の書(上) (ビームコミックス) 作者: 近藤ようこ,(原作)折口信夫 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン 発売日: 2015/08/24 メ…

「ドイツと日本を結ぶもの—日独修好150年の歴史—」(国立歴史民俗博物館)

千葉は佐倉の国立歴史民俗博物館で開催中の「ドイツと日本を結ぶもの—日独修好150年の歴史—」展を観てきた。 1861年に日本とプロイセンとのあいだで修好通商条約が結ばれる。つまり2011年が150周年にあたり、日独両国でいくつかの行事があった。ドイツではマ…

ドイツ映画『ぼくらの家路』

2013年制作のドイツ映画『ぼくらの家路』が9月19日から日本で公開される。試写を観せていただいた。原題は"Jack"。 監督はEdward Berger、パンフでの表記はエドワード・ベルガー。主演は11歳の少年、Ivo Pietzcker。 冒頭の場面。朝、10歳のジャック(Pietzc…

THE 世界名作劇場展

池袋の東武百貨店でやっている「THE 世界名作劇場展」にムスメと行った。 「制作スタジオ・日本アニメーション 40年のしごと」。ぼくがリアルタイムで観ていたのは『フランダースの犬』くらいまでだけど(カルピス時代…)、キャラクターたちはなんとなく目に…

『ヤング・アダルトU.S.A.』を読んだ

長谷川町蔵×山崎まどか『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS、2015年8月) ヤング・アダルトU.S.A. (ポップカルチャーが描く「アメリカの思春期」) 作者: 山崎まどか,長谷川町蔵,川原瑞丸,多屋澄礼,藤田康平(Barber) 出版社/メーカー: DU BOOKS 発売日: 201…

「ジャック・カロ リアリズムと奇想の劇場」展

4月8日からやっていた上野の国立西洋美術館「ジャック・カロ」展、閉幕前日に駆け込みで見てきたのだ。 Jacques Callot ジャック・カロ(1592-1635)は、ロレーヌ公国(ドイツ語ではロートリンゲン)で生まれ、主にイタリアはフィレンツェで活躍した版画家。…

ハイレッドセンター展(松濤美術館)

ハイレッドセンター展を観にいった。下北沢から井の頭線にのって神泉で降り,松濤美術館へ。一昨日からの風がおさまり比較的過ごしやすい気温であり天気でもあり,今日は薄手のコートを羽織ってふわりふわりと歩いたのだったが,ぼくの前を歩くカップルは女…

映画「コーヒーをめぐる冒険」をみた

2013年のドイツ・アカデミー賞で作品賞をはじめとする主要6部門を授賞し,ドイツ以外でも多くの国々で公開されているという,評判の映画である。監督はヤン・オーレ・ゲルスター,これがデビュー作と。渋谷のシアター・イメージフォーラムに11時に行き、13時…

アメリカのベストセラーYA小説

ジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』(2013年7月) 岩波書店STAMP BOOKSシリーズ、金原瑞人、竹内茜訳。原書 “The Fault In Our Stars” は2012年刊、アメリカではベストセラーになったYA文学。 さよならを待つふたりのために (STAMP BOOKS)作…

マームとジプシー『cocoon』

この水曜日、東京芸術劇場でマームとジプシー『cocoon』を観た(マチネ)。幾人かの信頼できる人が観ることを強く薦めていたので、並んで当日券を買い求めて観たのだ。そして、たしかに2時間ほどの舞台に引き込まれ、終わったあと、満たされるものが確実に体…

メリーナ・マーケッタ『アリブランディを探して』

メリーナ・マーケッタ『アリブランディを探して』(岩波書店、2013年1月) うん、これは「YA文学」というジャンルの典型的作品だ。標しづけられた主人公、集団からの疎外と「ほんとうの仲間」の発見、発揮される才能、出自の秘密、恋愛とセックス、自分探…

『もやしもん 12』は日本酒とセーラー服

石川雅之『もやしもん 12』(講談社、2013年4月) youthからadultへの移行期において、ややこしいことをややこしいこととしてそのままにしつつ、自分がどこに向かっているのかよくわからぬまま、しかし妙に一生懸命になれ、変に充実した(気分の)日々を過ご…

『ことばの力学」と『漢字雑談』、二冊の新書を読んだ

白井恭弘『ことばの力学 — 応用言語学への招待』(岩波文庫、2013年3月)と高島俊男『漢字雑談』(講談社現代新書、2013年3月) 先月出た新書の中で、言葉に関するもの2冊を読んだ。 『コトバの力学』は、タイトル通り、「応用言語学」の入門書としてとても…